第6回 情報メディア学会論文賞
原島大輔「閉鎖かつ開放 情報技術環境における生命システムの条件についてのネオサイバネティクス的考察」情報メディア研究 Vol. 13 (2014) , No. 1
原島大輔氏 受賞コメント
情報メディア学会論文賞をいただきまことに有難うございます.この論文は,三輪眞弘さんのメディア・アート作品《逆シミュレーション音楽》について,基礎情報学/ネオ・サイバネティクス的な立場から考察したもので,とりわけこの作品における《命名》という要素に注目して,それが情報的閉鎖系と物質的開放系を共立させる媒介の術を,まさにメディア・アートの本質と定義してみたのでした.それは,メディア・アート研究というだけでなく,現代のグローバルな情報メディア状況における,きわめて特別な意味で普遍的な問いとしての,基礎情報学/ネオ・サイバネティクスにもとづく倫理的・感性的な生態学の課題としてとりくまれました.
他方でまた,三輪さんのこの作品には,じつはごく私的なめぐりあわせもありまして,私がまだ学部生だった頃,ちょうど《逆シミュレーション音楽》がオーストリアのメディア・アート祭《アルス・エレクトロニカ》で最優秀賞を受賞なさった年に,当時の指導教員だった吉岡洋先生が三輪さんを授業に招待してくださり,その後の懇親会,京都百万遍の交差点にある料理屋の2階で,三輪さん直々の手ほどきのもと先輩方や同輩達と一緒に簡単な《逆シミュレーション音楽》を試してみたのでした.それがじつに何とも言い難い不思議な感じがして,あれは一体何だったのかとときどき考えます.この論文はその宿題にひとつのかたちで答えを出したものでもあったのかもしれません.
執筆にあたっては,西垣通先生をはじめネオ・サイバネティクス研究会のみなさまに多大なご指導をいただきました.いつもみなさまに支えていただいております.心より御礼申し上げます.受賞によって恩返しができたことをたいへん嬉しく思っております.
情報メディア学会には多岐にわたる領野から多様な研究が集まっています.拙稿がそこにひとつの成果として貢献できたことをとても光栄に思っております.この貴重な学際的学会の今後ますますの発展を祈願するとともに,私自身もいっそう精進してまいります.