情報メディア学会: Japanese Society for Information and Media Studies
更新日[2007.2.4]

お問合せ サイトマップ 更新履歴
学会ホーム > 研究大会報告 > 第4回研究大会

第4回研究大会が開催されました

 6月25日(土)に、大妻女子大学千代田キャンパスにおいて第4回研究大会が開催されました。
 参加者数は117名(会員58、非会員59)と大変多くの方にお集まりいただきました。大会は、坂元会長の挨拶で始まり、引き続いて横江公美氏による基調講演「デモクラシーとデジタル・リテラシー:デジタル情報資源を利用した判断力の開発」では、米国事情などと比較しながら、デジタル・メディアとの関わりの中での個人と社会の情報利用戦略を論じて頂きました。
 午後からのシンポジウムは、「メディア・メソドロジーの諸相」をテーマに、各パネリストからの報告とパネル・ディスカッションが行われました。パネリストとして、マス・メディアの観点からは猪狩章氏、文化外交政策の観点からは近藤誠一氏、視聴者・一般市民のメディア・リテラシーの観点からは坂田邦子氏から、それぞれご報告をいただきました。その後、田中順子氏を司会に、メディア・メソドロジーの諸相について、日本およびアジア、欧米のメディア事情とメディア・リテラシーの取り組み、近年の情報技術・メディアを取り巻く具体的事象をふまえて、複数の異なる立場からの情報・メディア利用の方法論・戦略について、パネル・ディスカッションが行われました。
 並行して、5つの組織が参加した展示・デモ、及び会員による11件のポスター研究発表があり、昼休みと休憩時間を中心に、多くの参加者が見学・討論する姿が見られました。
 終了後の懇親会にも、講師・パネリストを含む30名あまりが参加し、賑やかな議論、歓談が繰り広げられました。

■大会プログラム概要
受付開始: 9:00
開式: 9:40
会長挨拶: 9:40〜 9:55
基調講演:10:00〜11:30
総会:11:30〜12:00
昼休み:12:00〜13:00
ポスターセッション/展示:12:00〜14:00
シンポジウム:14:00〜17:00

□ポスター発表
 1.わが国の児童サービスに関する公共図書館ホームページの現状
  丸山有紀子・金沢みどり
 2.図書引用の研究
  角田 裕之
 3.インターネットの情報検索におけるファセット分類の有効性
 〜先行研究〜
  洪 梅
 4.諜報機関から羽ばたいた偉大な情報学者J.H.シェラ
  松?魁’郢?
 5.情報メディア産業における情報通信技術の進化の影響に関する一考察
  遠山 正朗・長谷川 雄亮・桐生 紘輔
 6.電子マガジンの現状と課題
  坊農豊彦・長井壽満・西尾安正・増子保志・橋本信彦
 7.情報化社会におけるコモンズのあり方とOPE
  桐山和彦・山本喜一・本間啓道・白濱成希・原元司・岡田正・白石啓一
 8.システムの開放/閉鎖の区別とその記述方法に関して
  河井 延晃
 9.日化辞Webサービスの現状と将来
  富川弓子・前田知子・木村美実子・梶正憲
 10.図書館における問題行動論の動向と課題
  千 錫烈
 11.書き込み機能のアーキテクチャ変更に伴うユーザ行動の変化
  河島茂生・土橋祐介

□展示
【株式会社 アイ・エー・シー】
 1.正一郎F
  ・市販のTWINスキャナ、ファックスを利用したマークシートアンケートの自動読取・集計ソフトウェア
 2.花丸
  ・市販のTWINスキャナを利用したマークシート試験答案用紙の自動読取・集計・採点ソフトウェア
 3.その他(「絵統計」「心理・性格検査」等のソフトウェア紹介 )

【科学技術振興機構(1)】
 1.Webラーニングプラザ(http://WebLearningPlaza.jst.go.jp/)
 ・主に企業等にお勤めの技術者を対象に、インターネットでライフサイエンス、環境、ナノテク・材料、情報通信など、570テーマの教材を提供。
 2.J-STAGE −電子ジャーナルサイト−(http://www.jstage.jst.go.jp)
  ・インターネット上で電子ジャーナルを提供
  ・学会の発行する学術雑誌の電子ジャーナル化を支援

【科学技術振興機構(2)】
 1.JDream (http://pr.jst.go.jp/jdream)
  ・JSTが提供するエンドユーザ指向のWeb型科学技術文献検索システム
 2.日化辞Web(http://nikkajiweb.jst.go.jp/)
  ・日本化学物質辞書(日化辞)の無料一般公開

【国立情報学研究所】
 1.GeNii(NII学術コンテンツ・ポータル)の紹介
  国立情報学研究所は,平成17年4月1日にGeNii正式サービスを開始した。GeNiiは,学術研究に不可欠な様々な学術コンテンツ,論文や学術書の情報に加えて科学研究費による研究成果概要等などを統合的に提供するポータルサービス。
 GeNiiのデモンストレーション及びサービスの概要説明が行われた。

【株式会社 日立製作所】
 1.デジタルペンソリューション
  書いたら、即、電子化。ペンで書いた文字が電子化出来るシステムの紹介。
 2.指紋・指静脈認証ソリューション
  指の静脈パターン認証による高いセキュリティとすばやい照合により情報漏洩や不正利用等、高度なセキュリティ環境が実現できる認証システムの紹介。

【丸善株式会社】
1.講義支援システム「JENZABAR(ジャンザバー) IMS」
 教員と学生との双方向のコミュニケーションを実現し、大学教育でのコアであるFace to Faceの対面講義の効果を高めるためWebを媒体とした講義支援システム。

基調講演とシンポジウムの主な内容

[基調講演]
「デモクラシーとデジタル・リテラシー:デジタル情報資源を利用した判断力の開発」
講師 横江 公美 氏(Pacific21代表、東洋大学非常勤講師)
 横江氏は、米国での実際の体験を交えながら、米国の小学生が学ぶ意思決定プロセスの実際、中学・高校生のディベート教育、大学での情報収集スキルの習得などを実例を踏まえて紹介されました。米国でのこのような判断力を付ける教育実践を可能とする背景について、模擬国会、あるいはITによる行政・議会情報の公開性の高さ、および公共図書館の積極的な情報提供などを指摘されました。
 そのうえで、わが国におけるデジタル・リテラシーの課題について、誰でもが質の高いデータベースにアクセスすることが出来る環境の整備がデジタル・リテラシーの向上の第一歩であり、情報に基づいたデモクラシーを推進することになると指摘されました。米国とわが国における情報政策や図書館の現場での情報利用の状況について質疑が交わされました。

[シンポジウム]
「メディア・メソドロジーの諸相」
パネリスト 猪 狩 章 氏(朝日新聞社元ソウル支局長)

「『捏造』に留意し、玉石混交の『情報』にどう対処するか」
近藤 誠一 氏(外務省広報文化交流部部長)

「パブリック・ディプロマシーとメディア・メソドロジー:
              政府と市民は如何にしたらうまくつながるのか?」
坂田 邦子 氏(東北大学大学院情報科学研究科専任講師)

「文化的実践としてのメディアリテラシー」
司  会 田中 順子 氏(有限会社メディア・パラディッソ取締役社長)

 猪狩氏は、現在、情報化社会と言われているが、肝心の「情報」は玉石混交の状態であり、どのように利用してゆくべきかについて、課題が多いと指摘された上で、実際関わってこられた新聞・テレビの立場から、現在の状況について報告されました。
 まず、新聞とテレビについて、新聞の一覧性や言論性、テレビの速報性や娯楽性など、それぞれの特徴を指摘されました。そのうえで、読者や視聴者が「情報」を得るうえで、テレビでは「絵」が必須のため同一の映像が繰り返し使用されたり、ニュースの放映時間が短いために細切れのコメントになったり、視聴率競争や収入源が特定されるなど様々な制約があること、新聞記事の場合には様々な記事の分析が可能なことなど、新聞とテレビの違いについて指摘されました。
 また、新聞記事が作られる過程で、記者の役割の重要性を指摘され、情報源からの取材にさいして、曖昧さ、誤解、意図的なウソなどをどのようにして排除するかが、記者の役割として重要であること、すなわち虚報や捏造をどのようにて見抜くかという点を、過去の朝日新聞サンゴ事件など具体的な事例をあげて指摘されました。海外情報の場合には、日本に伝えられるときに、特派員の直接取材ではない二次情報になっている場合も多いことへの注意が必要なこと、捏造記事の事例を引き、メディアには常に捏造の危険があることなどが紹介されました。
 近藤氏は、外交の実際に携わってこられた経験を交えて、パブリック・ディプロマシー(広報外交)が重要であること、そのために、インターネット時代においてはWebの活用もしていることなどを紹介された上で、マスメディア時代における市民と政府の関係、さらに、最近のインターネットの普及によるマスメディア中心の広報外交の変化への対応、市民に直接政策の正当性をアピールすることの必要性の増大などを指摘されました。
 現状のように、政府自身がホームページで大量の情報を発信するようになると、市民は自由と能動性を手に入れたが、逆に、大量の「情報」を選択し、正しく判断する能力を身に着けない限り、市民にとってプラスになる保証はないという点が重要であると指摘されました。マスメディアを通じてパブリック・ディプロマシーを行うときには、多くの海外特派員により、各国の言語に翻訳され伝達される。しかし、現在のように、政府がホームページで、直接、海外に向けて発信をしようとすると、各国の言語への翻訳のための膨大な労力が必要で、大きな課題となっているので、そのためにも市民一人ひとりの情報選別と処理能力、そして信頼関係が大切であると指摘されました。
 坂田氏は、わが国におけるメディアリテラシーが狭義のコンピュータ利用技術としての「情報リテラシー」に限定されたものであることが多く、メディアを批判的に読み解く能力、メディアを使いこなす能力、メディアを使って表現する能力という多面的なものとなっていないと指摘されました。そのうえで、ご自身が取り組まれてきた、メディアリテラシーに関する共同研究プロジェクト「メルプロジェクト」などについて紹介されました。
 3氏からの報告を受けて、田中氏の司会で新聞・テレビなどのマスメディアとインターネットの今後の関わり、テレビの映像の制約性、政府機関の今後のパブリック・ディプロマシーのあり方、メディアリテラシーの実践経験から得られたものなど、多様な側面からメディア・メソドロジーについての質疑・議論が交わされました。