情報メディア学会: Japanese Society for Information and Media Studies
更新日[2014.09.23]

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第13回 研究大会 が開催されました 【PDFファイル

■ 大会開催報告

2014年6月28日(土)に,科学技術振興機構 東京本部にて,「デジタル化を拒む素材とアウトリーチ」を基調テーマとして,第13回研究大会を開催しました.参加者数は,正会員31名,非会員22名(但し,パネリスト・展示説明員8名を含む),学生会員3名,非会員学生7名の合計63名でした.

開会にあたり,西垣通会長から研究大会の基調テーマやプログラムについてご紹介をいただきました.

午前中にはメインホールにて推薦発表が行われました.これは今大会にて初めて導入された企画です.ポスターに応募された発表のうち,企画委員より選出された二件の発表の内容について,発表者より口頭でご紹介いただきました.

推薦発表の一件目は,永崎研宣氏(一般財団法人人文情報学研究所)より「デジタル化を拒む素材の近況:古典資料における文字の符号化」についてご発表いただきました.日本語文化資料のデジタル化をさまたげるひとつの問題となってきた異体字の符号化について,『大蔵経』のデジタル化を通じた事例報告をいただきました.文化・学術的用途の異体字符号化への理解が高まったことで,異体字符号化問題は,技術的には解決の見通しが立っていますが,その他にも,符号化提案の継続的取り組みや大量の異体字の効率的な管理共有や規格の見直しなどの課題が残されていることが指摘されました.質疑応答では,異体字符号化の意義や包摂の基準について議論されました.

推薦発表の二件目は,佐藤翔氏(同志社大学社会学部教育文化学科)より「心理学分野におけるオープンアクセスの進展」についてご発表いただきました.オープンアクセス(OA)化についての先行研究ではいまだ着手されていなかった国内の心理学分野におけるOAの進展状況を明らかにすることを目的として,『筑波大学心理学研究』を研究対象に調査した結果,先行研究で明らかにされている国際的な生命分野と比較すると,日本の心理学分野のOAは発展途上であり,そもそも電子化自体が遅れていることが明らかにされました.質疑応答では,地理的条件とOA化の影響関係や,引用頻度とOA化の関係について議論されました.

午後はパネルディスカッション「デジタル化を拒む素材とアウトリーチ」からはじまりました.江上敏哲氏(国際日本文化研究センター)をコーディネータに,パネリストとして大場利康氏(国立国会図書館),後藤真氏(花園大学文学部文化遺産学科),茂原暢氏(公益財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター),田中政司氏(株式会社ネットアドバンス)にご登壇いただきました.

まず江上氏より,「デジタル化はなぜ進まないか?」「ユーザはどこにいる?」という二つの問いが提起されました.すなわち,海外の日本研究におけるデジタル化された資料の深刻な不足状況,そしてこれまでのアウトリーチ活動(図書館サービスを十分に受けられないユーザに対して図書館サービスを提供すること)の想定外にいるユーザの問題(たとえば,研究者としてのキャリアパス上,大学の籍から離れざるをえない多くの若手研究者らが,アウトリーチのユーザ設定から外れてしまっているという,「若手研究者問題」など)を背景に,デジタル化資料を「つくる」「つたえる」「つかう」という三つの観点から議論する,パネルディスカッション全体の枠組みを提起していただきました.

パネリストの大場氏からは,「デジタル化の壁」というタイトルのご発表で,デジタル化のリスクとコストを誰が引き受けるかという問いを提起していただきました.すなわち,デジタル化には,アクセス改善や現物代替・拡張の面でメリットがある一方で,デジタル化推進のための経済的負担やデジタル資料への不満や権利関係のリスクなどデメリットも大きく,両者を天秤にかけたときに後者が勝っているという現状が,デジタル化を阻む壁になっている,というご指摘でした.

茂原氏からは,「「つくる」「つたえる」「つかう」「つ…」というタイトルのご発表で,四つめの「つ…」として「つづける」の重要性をご指摘いただきました.すなわち,デジタル化して公開しただけでは不十分であり,その先にある,「見つけてもらう」難しさ(たとえ一般的なウェブ検索結果の上位に入っていても,アカデミックな検索システムに参入していないと,ユーザに見つけてもらうのが困難であること)と,「同じように続ける」難しさ(デジタル化されたアーカイブは様々な要因によって持続的運用が困難であること)の,二つの困難を乗り越えていくことが重要であるとのご指摘でした.

田中氏からは,「日本語電子資料の海外での需要と利用について」というタイトルのご発表で,商用コンテンツとしての日本語データベースに携わるサービスベンダーとしての立場から,日本と海外の電子資料市場の差異や問題点や魅力についてご紹介いただき,今後の課題として,ビジネスモデルの確率,電子書籍・データベースの価格設定,永続的運用可能な基盤整備,利用を促進するための環境整備・人材育成,という四つの課題をご指摘いただきました.

後藤氏からは,「デジタル・アーカイブを「つかう」を考える」というタイトルのご発表で,デジタル・アーカイブの利用について,とりわけ歴史系デジタル・アーカイブの現状についてご紹介いただき,権利問題(多くのアーカイブでは権利関係・利用規程の明確さが研究用途には不十分であること),発見されるための枠組み(情報発見サービスが不十分であることや,若手研究者問題に代表されるアクセス格差によって,アーカイブ利用が阻まれていることなど),安定的な情報提供(研究用途で利用するにはデータの永続性が重要であることなど)という,「つかう」視点からの論点を提供していただきました.

休憩をはさんだパネルディスカッション後半では,フロアからの質問をもとにパネリスト全体で討議が行われました.「つづける」ことについて,ファンディングの問題や,機関が持続できなくなったときのデータベースの継承の問題などが議論されました.また,人材育成については,求められている能力が多様であり,基本的に人材の育成と確保が困難である現状が確認されました.ユーザからのフィードバックとモチベーションの関係についても意見が交換されました.デジタル化を拒む要因の突破に向けては,困難を一手に引き受ける人と資金の重要性や,デジタル化のメリットを周知,満足しているユーザからのフィードバックの重要性が指摘されました.また潜在的なユーザへのアウトリーチの戦略については,個々のデータベースの連携や,ユーザの捉え方などが議論されました.最後に江上氏より,アウトリーチとは,一方的にユーザに恩恵を与えることではなく,社会全体に貢献することを目的とするものであることが確認されました.

続いて,出展企業からのプロダクトレビューと,ポスター発表者によるライトニングトークが行われました.まずプロダクトレビューとして,科学技術振興機構よりJSTのサービス紹介および研究目的での情報資産提供について,またデータサイエンス・アドベンチャー杯および3i研究会の活動について,ご発表をいただきました.

ポスター発表者によるライトニングトークでは,角田裕之氏から「高被引用論文の学術機関リポジトリの登録調査の研究」,植村八潮氏から「電子書籍サービスシステムの現状と課題」,井規子氏から「国立大学図書館における貸出以外の利用状況の変化を示す指標の提案」,神山資将氏から「医療・介護等の多種職連携教育方策としての,メタ認知を促す思考スキーム」についてご発表いただきました.

最後はポスター展示エリアにて,ポスター発表について発表者と参加者とのディスカッションが行われました.最優秀ポスター発表として,正会員による投票の結果,大原司氏(筑波大学情報学群知識情報・図書館学類),佐藤翔氏(同志社大学社会学部教育文化学科),逸村裕氏(筑波大学図書館情報メディア系)による「心理学分野におけるオープンアクセスの進展——『筑波大学心理学研究』掲載論文の引用調査から——」が選ばれました.

■ 大会プログラム概要

  9:30 受付開始
  10:00

開式,会長挨拶

  10:15

推薦発表

  11:30

総会

  12:00 昼休み
  13:00

パネルディスカッション
 「デジタル化を拒む素材とアウトリーチ」

コーディネータ:
  江上 敏哲 氏(国際日本文化研究センター)
パネリスト:
  大場 利康 氏(国立国会図書館)
  後藤 真 氏(花園大学 文学部 文化遺産学科)
  茂原 暢 氏(渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター)
  田中 政司 氏(株式会社ネットアドバンス)

  15:40

プロダクトレビュー(展示出展機関による報告)
ポスター紹介ライトニングトーク
         (ポスター発表者による概要紹介)

  17:10

展示閲覧・ポスター発表 + ポスターディスカッション
※会員参加者の投票による最優秀ポスター発表の表彰

  18:30

閉会


■ ポスター発表

  1. 心理学分野におけるオープンアクセスの進展 —『筑波大学心理学研究』掲載論文の引用調査から—
     大原司(筑波大学情報学群知識情報・図書館学類)
     佐藤翔(同志社大学社会学部教育文化学科)
     逸村裕(筑波大学図書館情報メディア系)

  2. デジタル化を拒む素材の近況:古典資料における文字の符号化
     永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所)

  3. 高被引用論文の学術機関リポジトリの登録調査の研究
     角田裕之(鶴見大学) 孫媛(国立情報学研究所) 西澤正己(国立情報学研究所) 刘筱敏(中国科学院文献情报中心)

  4. 電子書籍サービスシステムの現状と課題
     植村八潮(専修大学) 野口武悟(専修大学) 成松一郎(専修大学)
     松井進(千葉県立西部図書館)

  5. 国立大学図書館における貸出以外の利用状況の変化を示す指標の提案
     井規子(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)

  6. 医療・介護等の多職種連携教育方策としての、メタ認知を促す思考スキーム
     神山資将(一般社団法人知識環境研究会)

■ 出展機関と展示内容

* 発表資料について

パネルディスカッション,ポスター発表について,発表者の予稿を掲載した「情報メディア学会第13回研究大会発表資料」を当日参加者に配付しました.残部がありますので,ご希望の方は 事務局 にお申し込みください.代金1,000円(他に送料を加算)は,発表資料送付時に同封する郵便振込票にてお払い込みください.

■ 最優秀ポスター発表受賞者インタビュー

心理学分野におけるオープンアクセスの進展
—『筑波大学心理学研究』掲載論文の引用調査から—

 大原司(筑波大学情報学群知識情報・図書館学類)
 佐藤翔(同志社大学社会学部教育文化学科)
 逸村裕(筑波大学図書館情報メディア系)

1. 最優秀ポスター発表受賞おめでとうございます.受賞について一言お願いします.

2. どういった経緯でこのメンバーで今回の研究を行うことになったのでしょうか?経緯を教えてください.

3. ポスター発表の研究概要について教えてください.

4. デザイン面などで工夫した点を教えてください.

5. ポスター制作にあたっての苦労話やエピソードなどありましたらば,教えてください.

6. ポスター発表時の会場の人からの反応はいかがでしたでしょうか?

7. ポスター発表の論文発表のご予定は?


■ おわりに

この大会の企画と準備は,以下の会員をメンバーとする大会企画委員会が中心となって行われました.これらの方々の多大のご尽力に感謝致します.

 [大会企画委員会]
   委員長 天野  晃 理化学研究所バイオリソースセンター
   委 員 石川 大介 科学技術・学術政策研究所
   委 員 角田 裕之 鶴見大学 文学部
   委 員 中林 幸子 東北文教大学短期大学部 総合文化学科
   委 員 原島 大輔 東京大学大学院 総合文化研究科
   委 員 岡野 裕行 皇學館大学 文学部
   委 員 植松 利晃 科学技術振興機構 総務部
   委 員 岡部 晋典 同志社大学 学習支援・教育開発センター