第15回 研究大会 が開催されました 【PDFファイル】
■ 大会開催報告
2016年6月25日(土)に、筑波大学筑波キャンパス春日地区(エリア)にて、「障害者差別解消法の施行と公共図書館のこれから」を基調テーマとして、第15回研究大会を開催しました。参加者数は、正会員29名(講演者・パネリスト2名を含む)、学生会員6名、非会員(パネリスト3名を含む)、非会員学生13名の、合計66名でした。
開会にあたり、中山伸一会長から研究大会の基調テーマやプログラムについてご紹介をいただきました。
午前中の基調講演「基礎的環境配備と合理的配慮:障害者差別解消法施行を受けて図書館が取り組むべきこと」では野口武悟氏(専修大学文学部教授)にご登壇いただき、障害者差別解消法の制定の背景、障害者差別解消法の内容、それから、障害者差別解消法の重要な鍵概念である《基礎的環境配備》と《合理的配慮》についての解説、さらに、それらをふまえて今後の図書館での取り組みの展望について、ご講演いただきました。
障害者差別解消法の背景には、障害についての個人モデルの考え方から社会モデルの考え方への転換があります。すなわち、障害を個人の属性とみなすのではなく、社会の属性とみなす考え方です。たとえば、図書館についていえば、障害とは、利用者の側にあるものではなく、図書館の側にあるものであると考えることです。そうであれば、社会がつくりだした障害を取り除くのは、社会の責務であるとみなされます。2006年には国連総会において「障害者の権利に関する条約」が採択され、これを批准した日本でもこの条約の締結に向けて整備がすすめられました。
こうした理念や背景のもとでつくられた障害者差別解消法では、たとえば「障害者」は、障害者手帳の有無によらず広範に定義されています。つまり、個人の状態にとどまらず、社会生活・日常生活の状態も含めて障害が定義されています。また、「社会的障壁」も、事物や制度にとどまらず、慣行や観念も含めて広く定義されています。このような理念のもと、障害者差別解消法によって図書館には、状況に応じた変更や調整を、図書館の体制・費用の負担がかかりすぎない範囲において実行する、「合理的配慮」がもとめられます。合理的配慮は、行政機関等の図書館では義務であり、事業者の図書館では努力義務です。
合理的配慮は、一人ひとりのニーズに応じた変更や調整で、個別対応の直接サービスといえます。基礎的環境配備は、この合理的配慮を的確に行うための環境整備であり、間接サービスといえますが、合理的配慮とそれを下支えする基礎的環境配備とは、ときには両者の明確な区別が困難な場合もありえるほど、密接に連関した不可分な関係にあります。
障害者差別解消法施行以後、図書館にはどのような取り組みができるでしょうか。まずそもそも、「障害者」の実情についての理解をあらためる必要があるでしょう。ディスレクシアのような、気づかれにくいがゆえに配慮が後回しにされがちだった障害にも配慮することの必要性が強調されました。図書館が基礎的環境配備としては、職員の意識と理解の向上、規則・ルールの改正、施設・設備のバリアフリー化、読書補助具・情報保障機器の導入と周知、アクセシブルな資料・情報資源の収集と促進があげられました。図書館の合理的配慮としては、電話・代筆・代理人による利用対応、対面朗読(対面音訳)、職員による個別の支援、資料の郵送貸出・宅配、資料の貸出期間の延長や貸出冊数の拡大があげられました。また、図書館の相談窓口の設置と明確化や、非来館相談や責任の明確化など、体制の整備の重要性にもふれられました。そして、これらの取り組みについては、図書館の広報やPRによって、サービスがあることをそもそも周知することの重要性も強調されました。
合理的配慮と基礎的環境配備を、特別ではなく当然の取り組みにしていくことで、誰もが平等に利用できる図書館実現への一歩として、障害者差別解消法と今後の取り組みの意義を解説していただきました。
午後はまず、シンポジウム「障害者差別解消法の施行と公共図書館のこれから」 が開催されました。午前から引き続き野口氏にコーディネーターとしてご登壇いただき、まず、「障害者差別解消法の施行とそれに伴う合理的配慮の提供義務化を受けて、これからの公共図書館のあり方」を探究するという企画趣旨についてご説明いただきました。
パネル発表ではまず、小原亜実子氏(横浜市中央図書館障害者サービス担当)で、「横浜市中央図書館の障害者支援事業」についてご発表いただきました。横浜市中央図書館における、障害者サービスのあゆみ、職員体制、具体的な図書館利用の障害(資料利用・来館・コミュニケーション)、広報、視覚障害者サービスコーナーと図書館全体の設備・道具の例、イベント・研修について、現場の状況をご報告いただきました。
続いて、小池信彦氏(調布市立図書館長) から、「調布市立図書館におけるハンディキャップサービス」についてご発表いただきました。障害者向けのサービスというよりも図書館利用に障害のある人へのサービスとしてのこのハンディキャップサービスは、図書館側の障害を取り除いていくことで「すべての人にすべての本を」提供するためのサービスです。調布市立図書館におけるハンディキャップサービスの歴史として、通常の印刷文字による読書が困難な人へのサービス、子どもへのサービス、宅配サービス、聴覚障害者へのサービス、車いすの方へのサービス、大活字本の収集、音訳者/点訳者/布の絵本製作者の養成について、ご報告いただきました。
さらに、野村美佐子氏(日本障害者リハビリテーション協会情報センター参与)からは、「読書を支援する図書館の合理的配慮:欧米の動向」と題して、障害者差別解消法施行をうけて図書館の合理的配慮の今後のいっそうの取り組みに向けたひとつの参考として欧米の動向という観点を提供していただきました。情報へのアクセスを権利として尊重する立場から、障害者の情報アクセス権を支える世界的動向として、とりわけ米国とスウェーデンにおける図書館の合理的配慮についてご紹介いただきました。
最後に、牧野綾氏(調布デイジー代表)から、「ディスレクシアの人が使いやすい公共図書館って?」という問いについてご発表いただきました。実際にディスレクシアのご家族をもつひとりの母親としての視点から、学習障害における読字障害(および、しばしば書字障害も含む)としてのディスレクシアの定義、アクセシブルな情報システム「マルチメディアDAISY」活用の事例、それから図書館における障害者サービスにおける広報の重要性と、職員全員がサービス内容の理解を共有することの重要性について、ご発表いただきました。
質疑応答では、マルチメディアDAISYについてのより詳細な機能について、サービスの呼称や表現の工夫について、障害者差別解消法施行後の予算の変化について、禁帯出資料と配達サービスとのかねあいについて、合理的配慮への日本と欧米の差異について、障害者差別解消法における「障害者」の定義について、会場から質問をもとに議論が展開されました。
休憩をはさみ、ポスター発表者による推薦発表とライトニングトークが行われました。推薦発表では、松山麻珠氏 (筑波大学大学院)、池内淳氏(筑波大学)「表示媒体と光環境 違いが誤りを探す読みに与える影響」、佐藤翔氏(同志社大学)、生田奈津実氏(同志社大学)、岩崎千裕氏(同志社大学)、奥田光結氏(同志社大学)、小野崎可藍氏(同志社大学)、大同初音氏(同志社大学)「日本人の情報行動から見る「孤独」」、吉川次郎氏(筑波大学大学院)、高久雅生氏(筑波大学)「Wikipedia上のJ-STAGEコンテンツの分析:研究分野を中心に」、ライトニングトークでは、恩田怜氏(常陸大宮高校)、白井哲哉氏(筑波大学)、大原司氏(東京大学附属図書館)、吉田右子氏(筑波大学)「個人文書群の目録編成に関する研究—小野増平と馬場重徳文書の比較を通して—」、叢艶氏(筑波大学大学院)、高久雅生氏(筑波大学)「唐詩情報のLinked Data化の試み」、松岡智文氏(九州大学地球社会統合科学府)「コメント投稿型視聴者参加番組におけるコミュニケーション形態について」、高岡健吾氏(株式会社インハウスDS)、松井進氏(千葉県立西部図書館)、野口武悟氏(専修大学)、植村八潮氏(専修大学)「モバイル型汎用端末向けアプリケーションのアクセシビリティ評価のための当事者参加型ウェブサイトの構築と実証的検討」、三上拓氏(東京工科大学メディア学部メディア学科)「日本アニメにおけるデジタルファイルベースのワークフローの提案と考察」、榎本翔氏(筑波大学大学院)、篠崎貴徳氏(筑波大学大学院)「公共図書館Webサイトにおけるアクセシビリティ調査」、以上あわせて9件のご発表をいただきました。
最後はポスター展示+企業展示エリアにて、参加者と各ポスター発表者ならびに三笠サービス様とのディスカッションが行われました。今大会の最優秀ポスターとして、正会員による投票の結果、松山麻珠氏 (筑波大学大学院)、池内淳氏(筑波大学)「表示媒体と光環境 違いが誤りを探す読みに与える影響」が選ばれました。
なお、今研究大会では、茨城県立聴覚障害者福祉センター「やすらぎ」の手話通訳者の皆様に手話通訳による情報保障を、そして鶴見大学情報バリアフリー推進会の学生の皆様にパソコンテイクによる情報保障を、それぞれご担当いただきました。長時間にわたる研究大会の手話通訳とパソコンテイクに心より感謝申し上げます。
■ 大会プログラム概要
9:30 | 受付 | |
10:00 | 基調講演 |
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11:30 | 総会,昼食 |
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13:30 | シンポジウム |
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15:45 | 推薦発表 + ライトニングトーク |
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17:10 | 展示閲覧・ポスターディスカッション(表彰式) |
■ ポスター発表
* 発表資料について
パネルディスカッション,ポスター発表について,発表者の予稿を掲載した「情報メディア学会第15回研究大会発表資料」を当日参加者に配付しました.残部がありますので,ご希望の方は 事務局 にお申し込みください.代金1,000円(他に送料を加算)は,発表資料送付時に同封する郵便振込票にてお払い込みください.
表示媒体と光環境の違いが誤りを探す読みに与える影響
松山麻珠 (筑波大学大学院)
池内淳(筑波大学)
1. 最優秀ポスター発表受賞おめでとうございます.受賞について一言お願いします.
2. どういった経緯でこのメンバーで今回の研究を行うことになったのでしょうか?経緯を教えてください.
3. ポスター発表の研究概要について教えてください.
4. デザイン面などで工夫した点を教えてください.
5. ポスター制作にあたっての苦労話やエピソードなどありましたらば,教えてください.
6. ポスター発表時の会場の人からの反応はいかがでしたでしょうか?
7. ポスター発表の論文発表のご予定は?
■ おわりに
この大会の企画と準備は,以下の会員をメンバーとする大会企画委員会が中心となって行われました.これらの方々の多大のご尽力に感謝致します.
[大会企画委員会]
委員長 元木 章博 鶴見大学 文学部
委 員 天野 晃 国立研究開発法人 物質・材料研究機構
委 員 石川 敬史 十文字学園女子大学
委 員 岡部 晋典 同志社大学 学習支援・教育開発センター
委 員 佐藤 翔 同志社大学 免許資格課程センター
委 員 中林 幸子 四国大学 文学部
委 員 原島 大輔 聖学院大学 政治経済学部
委 員 藤平 俊哉 科学技術振興機構 知識基盤情報部
委 員 真栄城 哲也 筑波大学大学院 図書館情報メディア系