第17回 研究大会 が開催されました 【PDFファイル】
■ 大会開催報告
2018年6月23日(土)に中央大学多摩キャンパスにて,第17回研究大会を開催しました.午前のプログラムでは,基調講演として「経済学から見た図書館 -図書館の役割と価値を見直す-」をテーマに一般社団法人情報科学技術協会会長の山崎久道氏にご講演をいただいただき,午後のプログラムでは「学習支援のネクストステージ」をテーマとしたシンポジウムの開催,並びに6件のポスター発表が行われました.参加者数は,参加者数は,正会員33名,非会員13名(但し,パネリスト等の4名を含む),学生会員1名,非会員学生7名の合計54名でした.
開会に先立ち,中山伸一会長から挨拶とプログラムのご紹介をいただきました.
午前は「経済学から見た図書館 -図書館の役割と価値を見直す-」というテーマで山崎久道氏による基調講演を行いました.山崎氏からは,経済学の本質は「有効な資源を,どう分配するのがもっとも合理的なのかを追求する学問」であり,公共図書館への財源分配の優先順位が高くないことに対しての有効な反論ができていないのは,「国民経済の中での図書館の位置づけ」や「社会的共通資本としての図書館のあり方」といった経済学的な視点,特にマクロ的視点が少なかったからではという問題提起がありました.
海外でのマクロ経済学の視点での研究について量的・質的の2つの観点からの紹介がありました.まず,量的な指標として「Return on investment(ROI・投資利益率)」を用いた研究事例を挙げられました.公共図書館の場合は利用者の受ける便益や社会に与える恩恵を利益と考えて,投下資本に対する倍率を計算しており,アメリカの公共図書館の事例ではウィスコンシン州の公共図書館ではROIは4.06倍,ミネソタ州の事例ではROIは4.62倍となっており,図書館への1ドルの投資が社会に4~5倍の便益となって還元される事実について言及されました.次に図書館の制度的側面や社会学的枠組みといった質的成果の指標も重要であることも言及され,「社会的共通資本(Social Overhead Capital)」の考えも重要であると指摘されました.
最後に図書館の価値を考えるときに大事なのは「利用者に対する価値(ミクロ的価値)と社会全体に対する価値(マクロ的価値)」の双方に着目することであり,わが国の図書館情報学でもこうした分野の研究や調査が進むことを期待したいとの抱負を述べて締めくくられました.経済学的視点で図書館を論じる必要性について初学者にもわかりやすく様々な事例を挙げながらのご講演であり,非常に有意義な基調講演となりました.
基調講演の後に2018年度総会が開催されました.詳細についてはニューズレターの「報告:総会の決定から」をご覧ください.
午後は「学習支援のネクストステージ」をテーマに岡部晋典氏(愛知淑徳大学人間情報学部講師)をコーディネーターに,上岡真紀子氏(帝京大学学修・研究支援センター教員),須賀井理香氏(東京大学大学院法学政治学研究科附属近代日本法政史料センター明治新聞雑誌文庫係長),浜島幸司(同志社大学学習支援・教育開発センター准教授)の3名をパネリストに迎え,「整いつつある,学習支援環境で,図書館員あるいは学習支援者は,どのように学習支援の理路を組み立てたらよいだろうか?」「学習支援者に求められるスキルはどのようなものか.その際,従来の職制と異なってくる部分について,どうクリアするか(クリアできていないか)」を中心的な問いとしたシンポジウムを開催しました.
まず,パネリストの3名からラーニング・コモンズについて,上岡氏は「図書館と図書館員は教授・学習支援にどのように関わっていくか」,次の須賀井氏は「東京大学における学術情報リテラシー教育を通じた学習支援」,浜島氏は「学習支援者の現状と今後:実践者および研究対象の視点から」と題したご発表をただきました.続いて岡部氏の進行のもと,「ラーニング・コモンズの担当者が専門性を身につけるためにはどのようにすればよいのか」,「全学の教員との連携」,「任期制雇用が多い現状と職員のキャリアアップ」などを論点としてディスカッションが行われました.会場からも様々な質問が寄せられ,シンポジウムを通じてラーニング・コモンズについての現状や課題が可視化されたことは大きな収穫でした.
シンポジウム終了後に行われたポスター発表では,6件の発表があり,ライトニングトーク(口頭発表),ポスターを囲んでの意見交換,会員の投票による最優秀ポスター発表の選出と表彰が行われました.
ポスター発表者によるライトニングトークでは,岡野裕行氏(皇學館大学)による「ウィキペディアタウンが示すもの」,森屋裕治氏(名古屋女子大学短期大学部)による「「情報学」を授業内容とした講義科目における,アクティブラーニングの実践報告 」,小松幸男氏,益子大輝氏,植村八潮氏,野口武悟氏(以上専修大学)による「音声ガイド付き DVD のアクセシビリティ -操作インタフェースの問題点を中心に」,下山佳那子氏,赤山みほ氏,野口久美子氏(以上八洲学園大学)による「大学はどのような司書を養成しているか―司書像と養成選択科目の調査―」,小山憲司氏(中央大学)による「「研究論文と有料の壁」の語られ方とその実際」,吉川次郎氏,高久雅生氏(以上筑波大学)による「英語版 Wikipedia における DOI リンクの初出時点の分析: 研究分野を中心に」の発表が行われました.
その後,ポスター掲示コーナーにて,発表者と発表者の自由な意見交換の場が設けられ,発表に関する活発なやりとりが交わされました.参加者の投票により最優秀発表には吉川次郎氏,高久雅生氏(以上筑波大学)による「英語版 Wikipedia における DOI リンクの初出時点の分析: 研究分野を中心に」が選出され,植村八潮新会長より表彰が行われました.また,閉会挨拶では,植村八潮新会長に新会長としての抱負を述べていただきました.
■ 大会プログラム概要
■ ポスター発表
* 発表資料について
パネルディスカッション,ポスター発表について,発表者の予稿を掲載した「情報メディア学会第17回研究大会発表資料」を当日参加者に配付しました.残部がありますので,ご希望の方は 事務局 にお申し込みください.代金1,000円(他に送料を加算)は,発表資料送付時に同封する郵便振込票にてお払い込みください.
また,第17回研究大会のポスター発表予稿集原稿は学会ウェブページで公開をしています.
英語版WikipediaにおけるDOIリンクの初出時点の分析: 研究分野を中心に
吉川次郎 (筑波大学大学院),高久雅生 (筑波大学)
1. 最優秀ポスター発表受賞おめでとうございます.受賞について一言お願いします.
2. どういった経緯で今回の研究を行うことになったのでしょうか?
3. ポスター発表の研究概要について教えてください.
4. デザイン面などで工夫した点を教えてください.
5. ポスター制作にあたっての苦労話やエピソードなどありましたらば,教えてください.
6. ポスター発表時の会場の人からの反応はいかがでしたでしょうか?
7. ポスター発表の論文発表のご予定は?
■ おわりに
この大会の企画と準備は,以下の会員をメンバーとする大会企画委員会が中心となって行われました.これらの方々の多大のご尽力に感謝致します.
[大会企画委員会]
委員長 小山 憲司 中央大学
委 員 天野 晃 国立研究開発法人 物質・材料研究機構
委 員 石川 敬史 十文字学園女子大学
委 員 岡部 晋典 愛知淑徳大学
委 員 佐藤 翔 同志社大学
委 員 千 錫烈 関東学院大学
委 員 角田 裕之 鶴見大学
委 員 中林 幸子 四国大学
委 員 長谷川幸代 中央大学
委 員 藤平 俊哉 科学技術振興機構