情報メディア学会 初代会長 坂元 昂
情報メディア学会の発展を願って
1999年ケルンサミットで、ICTの重要性が指摘され、教育の情報化が先進諸国の重要課題として取り上げられました。2000年4月初旬のG8教育大臣会合・フォーラムでも、学校、職場、生涯における教育革新と情報通信技術(ICT)の重要性が合意されています。
ICTは、大学、研究機関等では、研究の道具としてよく活用されていますが、最近では、教育の道具としても使われ始めています。アメリカでは、同時双方向音声映像による遠隔教育、同時オンラインコースのインターネットによる遠隔教育、非同期オンラインコースの遠隔教育などがこの1−2年の間に急増しています。
日本の大学でも、いわゆるバーチュアル・ユニバーシティを自校内、国内の大学間、海外の大学との間で運営するところも増えています。情報メディアが世界をまたにかけた教育の交流の基盤として活躍しているのです。
これを成功させるには、大学設置基準の変更等も必要となります。
高度情報通信社会になって、通信衛星、インターネット、テレビ会議、マルチメディア等が社会のあらゆるコミュニケーションの場で使われるようになっています。今、情報メディアに関する研究は、社会の急務です。
情報メディアと一言で言っても、多様な階層があります。メッセージを表現する、文字、数、形、色等の記号メディアから、それらの集合としての文章、写真、絵図等の意味表現メディア。またそれらをまとめてストーリーを構成する作品、番組等のコンテント、それらを載せて具体的に表現する書物、ビデオ,CD−ROM、DVD等のソフトウェア。さらにそれらの一部を拡大するCD−ROMドライブ、テレビ、ビデオ装置、DVD装置などの機材、オンライン情報提供、データベース等のシステム、コミュニケーション手段としての放送、通信、輸送などのチャンネルです。
これら多様な階層の情報メディア、それぞれの特性、人間の認知への影響、効率的な構成、運営、社会への影響、文化の中の情報メディア、情報メディアの歴史的発展等、研究課題は山積みされています。
こうした多面的、多様な研究の成果を発表し、情報交換しながら、現代社会における情報メディアの在り方を追求することが、この学会に課せられた大きな任務の一つだと思います。
また、メディア作品を発表し合い、論文誌や電子形態での発表も含め、適切な業績として評価することが必要です。いわゆる従来型の学術論文のみが研究業績として高く評価されるだけでは不十分です。とくに、情報メディア学会では、メディア作品の評価に高い位置を与える必要があります。研究の成果の具体的な表現でもあるからです。いわゆるコンテントだけでなく、機器開発、システム開発の成果も作品のなかにはいります。絵画、音楽、舞踊、建築などが作品として評価されるように、情報メディアの成果である各種作品も正当に評価される必要があります。
これは、従来型の学会と異なる情報メディア学会の特色の一つとなって欲しいと思っています。
この学会がみなさまのご努力によって、世界の情報メディアの在り方に大きな影響を与え、社会の発展に寄与することになるのを願っております。
【副会長のことば】
情報メディア学会の存在意義
高山 正也(慶應義塾大学 文学部 教授)
2000年の春、新たに「情報メディア学会」なる学会が発足すると知らされたとき、正直に言って、「ああまた情報系の学会という名の下に、仲良しクラブが一つ増えるのだな」と感じたし、その設立準備の中心になって奔走している人たちの顔ぶれを見た時は、「図書館情報大学が学内研究体制整備の一環として学内学会を創るのであろう」程度にしか感じなかった。その後、図書館情報大学の何人かの先生方の「この学会は決して、図書館情報大学の学内学会にとどまらず、全国学会を目指したい。研究の領域も図書館情報学に決して背を向けるのではなく、時代の要請に応じて、関連分野を可能な限り網羅し、結果として図書館情報学とも相互に補完し合いながら、情報事象を対象にする研究水準の向上・充実を目指したい。」との趣旨の熱情にあふれたご説明をいただき、いつしかその執行部の末席に座ることとなっていた。
しかし、案の定、学会が発足すると私の下にも、図書館情報学分野の旧知の人達から、忠告や非難や皮肉までが数多く寄せられた。曰く、「そんな余裕があったら、三田図書館・情報学会や日図協の図書館学教育部会にもっと時間を割いたら?」、「ただでさえ手薄な図書館情報学の研究者を分断して、図書館情報学をつぶす気なのか?」等々である。これらの意見は私が学会発足時に抱いた感じに相通じるものがある。
そこでそれらの人々には、「ともかく図書館情報学の頂点を高めるにはまず、基盤を広げなければならないし、そのためにも、関連の研究分野との交流や協力が必要であり、更に、図書館情報学分野でも、複数の全国学会が競い合うことで、研究者の増大にも基盤の拡大にもつながるのではないか。」と応えているし、今や私自身そう信じてもいる。
今後ますます発展する情報サービスや情報環境を支える情報関連の理論研究のために、更なる情報系の学会が新たな視点やアプローチのもとに出現し、相互に錬磨し合うことは時代の要請でもあろう。本学会もそのような大きな目的の一端でも担えれば、充分にその存在意義はあると考える。
しかし、学会の設立と安定した運営は一朝一夕にできるものではない。学会員から見れば学会の運営には何かとご不満も多いと思われるが、どうか建設的なご意見を積極的にお寄せいただくと同時に、暖かなご支援もいただけるよう併せてお願い申し上げます。
【副会長のことば】
「情報メディア学」とは何か
田畑 孝一(図書館情報大学 副学長)
新しい学会は「新しい学」のもとに生まれる。そこでは当然のことながらその新しい学は一体何かという議論が起こる。新しい学の定義について、諸説紛々となる。
かつて私は日本学術会議の情報学研究連絡委員会の委員をしていた際、「情報学とは何か」の概念を纏める作業に関与した。実に多くの考え方があり、纏めるのが困難であった。それぞれの提案には必ずその提案者の背景が色濃く反映している。だからといって、それらがどれも間違っているわけでもない。この作業を通じて感じたことは、その学がそれだけ大きな存在であって、だれもがその存在を認めているが説明しきれないということであった。そして私の内心で一つの”極端な”結論に至った。それは、「〇〇学」はその名称だけで一般に受け入れられるものであれば、それを定義する必要がない。こと細かく説明する必要があるものは「〇〇学」という資格がないのではないか。「〇〇学」はそれ自身常に発展するもので、ある時点で詳細に規定してもあまり意味がなく、その規定が逆にその発展を阻害することにもなろう。
翻って「情報メディア学」はその名称のみで、こと細かく説明することなく、一般に受け入れられるであろうか。学会の設立に際し、多くの方々が直ちに賛同して会員になった事実から、名称のみで理解されているに違いない。そして、喜ばしいことは、文系・理系にこだわらず多分野の方々がこの学会に参集されたことである。つまり学際的な学会であることが理解されていたのである。
「情報メディア学」の定義は別として、学際的であることは私のもっとも切望するところである。会員の方々が、自分の関心で、自分の信ずる立場で学会活動していけば、「学会こうあるべき」の議論を超えて、本学会は自ずから進展していくに違いない。