情報メディア学会: Japanese Society for Information and Media Studies
更新日[2009.07.31]

お問合せ サイトマップ 更新履歴
学会ホーム > 第3期会長挨拶

さらなる発展をめざして

渡 部  満 彦


情報メディア学会の目的

 情報メディア学会は坂元昂先生を初代会長として2000年6月10日に発足しました。その目的は次の通りでありました。
 情報通信基盤の整備がますます進むと予測される21世紀をむかえ、人は高度に発達した情報環境のなかで、ネットワークにつながる多様な情報メディアを活用することにより豊かな生活を享受し、自己実現に向けて努力することが期待されており、このような時代を背景に、アナログ情報メディアからデジタル情報メディア、文字情報メディアからマルチメディアまで、さまざまな情報メディアについて、個別学問領域からの専門的研究をすすめるとともに、これまでの図書館情報学や情報学等の枠組みをこえて、学際的な研究活動を行う場をあらたに設けることにあります。
 さらに、1.情報メディアにかかわる社会的基盤の研究、2.情報メディアの経営手法に関する研究、3.情報メディアに関するシステム科学的研究、4.情報メディア開発にかかわる人間の感性や認知メカニズム、そして5.媒体材料についての研究など、これまでの既存の学会では行えなかった総合的で有機的な情報メディア研究を新たな固有の学問領域として確立しようとするものであります。
 また、この学会では、優れた研究論文だけでなく、価値ある情報作品(コンテンツ、データベース、プログラム等)を評価し、広く世に知らしめることにより、社会に貢献したいと考えております。
 この目的からわかりますように本学会は“Research Level”だけでなく次世代に貢献できる“Product Level”での成果をもしっかり認めていきたいという考えのもとに立っております。また情報メディア学会の英語名称は“Japan Society for Information and Media Studies”であり、“Information Media Studies”ではなく情報とメディアの間に“and”があります。” Information and Media”と“Information Media”の違いをメディア論の見地からしっかりと考察すると意外とやっかいなのですが、この学会はインテレクチュアルコンテンツとノレッジキャリアをひとまず切り離して幅ひろい観点から「情報」と「メディア」を“Product Level”からもアプローチしてみましょうということにあります。

デジタル遺産を例として

 日々の流動する生活に追われていると歴史の大きな転換点をなかなか認識できないのですが、ひとつの事象も反省してみるとため息がでるほどの出来事であることに思いいたります。1450年の発明といわれていますグーテンベルクの活版印刷はライティングスペース(書写空間)の変容をもたらしただけでなく、智のインフラストラクチュアのあり方、智の保存を変えたであろうことは容易に想像がつきます。
 全米学術出版(National Academic Press)は2000年に“LC21:米国議会図書館のデジタル戦略(LC21:A Digital Strategy for the Library of Congress)”なる図書を刊行しました。この図書の刊行にたずさわった人々はたんに図書館関係者ばかりではなく、コンピュータ関係者、データベースベンダーなどいわゆる情報専門家(Information Specialist)と称されるさまざまな人々が参加しております。
 この図書の背景には1958年にはじまったMARCのパイロットプロジェクト、1964年のMEDLARSの実用化、あるいはHTML、XMLといったインターネットウェブ技術の誕生と進展という出来事が横たわっていると理解できます。 図書館とは智の永久保存と智の再編成を目的とする機関であります。したがって米国議会図書館がデジタル革命をみすえ、それが図書館界の進展とどうかかわるか、ジェファーソン時代から21世紀までを検証し、日々生まれる(Born-digital)デジタル遺産(Digital Heritage)を図書館資料としてどのように構築するかの、それが米国議会図書館の大きな課題となりました。
 デジタル情報にインテレクチュアルにアクセスできるための手法、従来の目録技術とメタデータをどう融合させるか、そのためには米国議会図書館の情報技術基盤整備はどうあるべきか、人的物的資源の最適化、米国内の図書館、世界の図書館との協力体制といったことを21世紀という視点から検討を加えたのが上記の図書であります。
 わが国では国立国会図書館が2000年度末に日本政府がe-Japan重点計画を立案し、美術館・博物館、図書館等の所蔵品のデジタル化、アーカイブ化を推進するとの方針に対応して、国の各機関、各種の機関と広く協力し、利用者がワンストップで電子的情報資源や情報提供サービスを適切に利用できる総合的なNDLデジタルアーカイブポータルサイトの構築をめざしています。  人は自分の経験域でしか物事を語れません。そのためにLCに触れたのですが、資料組織を考える学徒として、そのままにしておくと消え去ってしまうポルノグラフィをも含めたデジタル遺産の問題をクリエータ、ディストリビュータ、キュレータ、インフォメーションスペシャリスト等々で検討できるそんな柔軟な学会でありたいものです。

さらなる発展をめざして

 本学会のウェブサイトによりますと、会員数は2006年5月30日現在で個人会員344名(正会員322、学生会員22)、賛助会員6機関に達しております。人文科学、社会科学、自然科学、保健科学等を問わず、「情報」(インテレクチュアルコンテンツ)と「メディア」(ノレッジキャリア)に関心をもつ方々をさらに結集して切磋琢磨できる学会をめざすとともに、すでに退会した元会員の方々をもう一度呼び戻せるような、そんな学会でありたいと願っております。
 本学会の前副会長であられた高山正也慶應義塾大学名誉教授は「情報メディア学会の存在意義」(http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsims/kotoba.euc.html)で《2000年の春、新たに「情報メディア学会」なる学会が発足すると知らされたとき、正直に言って、「ああまた情報系の学会という名の下に、仲良しクラブが一つ増えるのだな」と感じたし、「ただでさえ手薄な図書館情報学の研究者を分断して、図書館情報学をつぶす気なのか?」等々》の忠告や非難や皮肉がよせられたと述べられています。しかしすでに指摘しましたように本学会は図書館情報学に限定されるものではなく、「情報」と「メディア」を “Research Level”と“Product Level”の双方から検討することで社会に貢献したいということにあります。
 高山先生はさらに《学会の設立と安定した運営は一朝一夕にできるものではない。学会員から見れば学会の運営には何かとご不満も多いと思われるが、どうか建設的なご意見を積極的にお寄せいただくと同時に、暖かなご支援もいただけるよう併せてお願い申し上げます》と「情報メディア学会の存在意義」を締めくくられております。本稿の終わりを高山先生のおことばを使わせていただくとともに、本学会のさらなる発展をめざして会員諸兄姉のご協力を伏してお願い申し上げる次第です。

(2006年8月30日)


現会長のご挨拶はこちら